参
そんな村を出た日のことを思い出し、ワシは布団に寝かされた
の手をぎゅっと握る。
日も沈んでいないのに、医者は今夜が峠だと言っていたのに、
はもう息をしていなかった。一度も目を覚まさず、眠ったままワシを置いていってしまった。
「っ……
ッ……」
名前を口にした途端、ぼたぼたと涙が零れ落ちてワシと
の手を濡らす。握っていた手をそっと置き、まだ温もりの残る真っ白な頬を擦る。
「いやじゃ……いやじゃぁっ……!!」
ワシが想いを伝えた時、
は顔を真っ赤にして頷いてくれたのに。感極まって抱きしめれば苦しいと言いながらも抱き返してくれたのに。
抱き上げた
は目を閉じたままでワシを見てくれない。顔は真っ白なままで赤くならない。どんなに強く抱きしめても何も言わない。呼吸も鼓動の音も聞こえない。だらりと脱力した腕が持ち上がってワシの背中に回ることを期待したけれど、
は抱き返す気配を見せない。
少しずつ腕の中の
が冷たくなっていく気がして背中をごしごし擦ると、思いのほか力が強かったのかペキペキと骨の折れる感触がした。
「あ……」
慌てて体を離して
を見る。
力の加減を誤って突き飛ばしてしまった時はいつもぷりぷり頬を膨らませて怒っていたのに、やっぱり何も言わなくて静かに眠っていた。
よりも早く目が覚めた日に盗み見した寝顔と重なる。
じっと見つめているとどうにも愛おしくて、ワシは
の頬に手を当ててゆっくり唇を重ねた。
との初めての口づけは、なんだか他のおなごとした時よりも生温かくてむなしいだけだった。
「すまん……
、すまんっ……」
これ以上骨を折らないように力を入れずに抱きしめる。
の希望どおり、今日は家で過ごすべきだった。ワシが外へ連れ出したから——江戸に一緒に来たから
は死んだ。ワシが死なせてしまった。
冷えて硬くなっていく
を抱いて、髪や体を撫でながら一晩中泣いた。
>> 四