ジャンクマン アイスクリーム
暇だから日本で遊ぼうと魔界を出た私とジャンクマンは、うだるような暑さにのぼせてしまい、公園の木陰にあるベンチでだらしなく座っていた。
暑い。暑すぎる。湿度が高いのかジメジメと体にまとわりつく暑さが不快だ。
「アイス食べよう……」
「そうだな……」
私とジャンクマンの間に置いていたビニール袋からカップアイスと木の匙を二つずつ取り出す。公園にたどり着く前に見つけたコンビニで私が買ったものだ。ほら、コンビニってあまり広くないから、ジャンクマンだと棚に手を引っ掛けちゃったりして商品を落としかねないでしょう。だから彼には公園で涼むことができそうな場所を探してもらっていたのだ。
「はい、ジャンクはチョコでいい?」
「おー…………カップか」
「あ、」
カップアイスと木の匙を渡そうとしてハッとする。そういえばジャンクはいつも吸うタイプのアイスを食べていた。
「ごめん、このアイス美味しそうだったから何も考えずに買っちゃった」
「謝んなって。なんとかいけんだろ」
うぅっ、その優しさが胸に痛いよ。
ジャンクは器用にアイスを受け取り、若干苦戦しながら匙の入った紙袋を開けた。でも、やっぱりアイスの蓋はなかなか開けられないみたい。
「ね、ジャンク……その、嫌じゃなかったら私が食べさせてもいい?」
「は!?」
「ほら、あーんってやるやつ!」
「ばっ……そんな雛鳥みてぇなことできるわけ……!」
「ジャンクはバーベキューで私にしてるでしょ!」
「ぐっ……」
私の反撃にジャンクは短く唸って口を噤んだ。彼とご飯を食べる時は大抵バーベキューになるんだけど、お酒が入るとジャンクは悪ノリしてその手に刺さったお肉や野菜を直接食べさせてくる。その“お世話”のお返しに私がアイスを食べさせたっていいじゃない?
ジャンクとは付き合いが長いから、私が譲らないってことは百も承知のはず。
案の定、ジャンクは諦めたのか私にアイスと匙を差し出した。
「今回だけだからな」
「はいはい」
ムッと拗ねたような表情の彼が可愛くて、にやにやしながら返事をしたらギロっと睨まれた。怖い怖い。
「はい、あーんして」
「チッ……」
アイスの蓋を開け、わざと優しく声をかけると、ジャンクは大きく舌打ちをして渋々口を開く。すくったアイスをその口に入れるとぱく、と閉じたのでそっと匙を引き抜いた。もにょもにょと口を動かして味わっているジャンクがとっても可愛くて、私の口はだらしなく緩んでいた。
自分のバニラアイスを食べ、ジャンクにチョコアイスを食べさせる。それを繰り返し、残り半分くらいになった時に、突然ぴゅうと風が吹いた。
「あっ!」
ジャンク用の匙が風にさらわれて宙を舞い、ぽとりと地面に落ちてしまった。急いで拾ったけれど匙は砂に塗れていて、周りには手洗い場もないから使えそうにない。
「ご、ごめんねぇ……」
「そんな死にそうにならなくてもいいだろうが。残りはお前が食っていいぞ」
「うぅっ……」
ジャンクは私がどんなにミスをしても怒らない。怒るってほどのことでもないんだろうけど……馬鹿とか阿保とか詰ってくれた方が気が楽になるのにな。
食べかけの二つのアイスと一本の匙を見つめ、何としてでも怒ってもらいたい私はジャンクにある提案をする。
「ねぇ……ジャンクが嫌じゃなかったらさぁ……わ、私の匙で食べない?」
「……は?」
「い、嫌ですか……?」
口も目も丸くしたジャンクに見つめられ、思わず敬語になってしまう。でもこれで怒られれば、私の溜飲も下がるから、ぜひとも馬鹿とか阿保とか詰ってもらいたい!
でも私のそんな気持ちは届かなかったようだ。
「別に嫌じゃねぇけどよぉ……」
「えっ」
今度は私が目と口を丸くする番だった。イヤジャナイって……嫌じゃないってこと!?
「自分で言っといて間抜け面してんじゃねぇ」
「あ、うん……はい……」
「おら、とっとと食わせろ」
「はい……」
なにがなんだかわからないまま、私はバニラアイスをすくってジャンクの口に入れる。
「これバニラだぞ」
「もう色々とわかんない」
「なんだそれ……てか顔が赤ェ。熱でも出たか?」
「……ジャンクだって、真っ赤だよ」
お互い真っ赤な顔でしばらく見つめ合って、ぎこちなく視線を逸らした。
「……チョコ、おいし」
「よかったな」
「はい、ジャンクも」
「ん……」
涼しくなりたくてアイスを食べているのに、食べる前よりも体が熱くて胸が苦しい。でも、病気じゃないってことくらいはわかっている。
気づかないふりしてたのになぁ……。ジャンクも私と同じ気持ちだったらいいのに、なんて、ぼんやり熱に浮かされた頭で思うのだった。
加筆修正:2024.09.10