ブロッケンJr. デザート
今日は両親がおらず、食事は自分で準備しなければならない。適当に出来合いのものでも買っておこうとブロッケンJr.は近くのスーパーマーケットへと足を運ぶ。
その道中、向かいから近所に住むソフィアが紙袋を抱えて現れた。買い物の帰りなのだろう。お互いに気づいて足を止め、そして挨拶を交わす。
「こんにちは、ブロッケンくん」
「こんにちは!」
「ブロッケンくんもお買い物?」
「あー、まぁそんなところです。今日親がいないんで、適当なの食べようかなって」
「あら、そうだったの……」
ブロッケンJr.の言葉を聞き、ソフィアは眉を寄せる。偏見だが、彼は料理なんてせず、出来合いのものを買っても肉ばかりで野菜なんて全く食べなさそうだ。なにより一人での食事は味気ないだろうと思い、ソフィアはブロッケンJr.を誘った。
「グラーシュ(ドイツのシチュー)で良ければ食べに来る?」
「えっ、いいんですか!?」
「もちろん」
にこっと笑うソフィアの言葉に、素直なブロッケンJr.は甘えることにした。
彼女の隣に行き、トマトやパプリカ、付け合わせのじゃがいもや缶詰といったグラーシュの具材が詰まったそれなりに重い紙袋を持つ。ソフィアが慌てて取り返そうとするが、夕食をご馳走になるのだからとブロッケンJr.は頑として譲らなかった。
家に着き、ブロッケンJr.がキッチンに食材を置いている間にソフィアは暖炉に火をくべる。スーパーへ行く前もつけていたので、部屋はそれほど寒くはない。沸かしたお湯で紅茶を淹れたソフィアは、ブロッケンJr.にくつろいでいるように告げ、グラーシュ作りに取りかかった。
作っている間に他愛のない世間話をしたり、ケックス(ビスケット)を摘んだりしているとあっという間に時間が経ち、グラーシュが出来上がる。
「おかわりたくさんあるからね」
「ありがとうございます!」
ブロッケンJr.は、大盛のグラーシュと付け合わせのじゃがいもをもりもりと食べ進める。
美味い美味いと言いながら口いっぱいに頬張るブロッケンJr.は、年齢よりも幼く見えて可愛らしい。作ったかいがあったな、とソフィアもグラーシュを口に運んだ。
多めに作ったグラーシュはほとんどがブロッケンJr.の腹に収まり、鍋を洗いながら食欲の旺盛さに感服する。
自分の夫とは違って彼は超人で、常日頃から体を動かしているのでたくさん食べられるのだろう。中途半端に残るより全部食べてもらえてよかった。
片付けを終えたソフィアは新しく紅茶を淹れ、リビングへと向かう。
テーブルに紅茶の乗ったトレーを置いて、ソファーに座るブロッケンJr.を見れば、暑いのか額の汗を手の甲で拭っていた。
「暖炉、消しましょうか」
「あ、すみません……なんか、暑くって。ソフィアさんは暑くないですか?」
「うん、普通かな」
「オレだけかぁ……」
暖炉の火を消し、ソファーに腰かけているブロッケンJr.の隣に座る。近くで見れば彼の顔はのぼせたように赤く、呼吸も少し乱れていた。
紅茶を一気に飲み干して、それでも落ち着かないのかブロッケンJr.はふぅふぅと息苦しそうに喘ぐ。
「風邪かしら……」
「うぁっ……だっ、大丈夫、です」
ソフィアが手を伸ばしてブロッケンJr.の頬に触れると、大袈裟なほどに体をビクリと揺らす。そんな彼の反応に薬が効いてきたのだとソフィアは口角を上げ、そのまま首筋を撫でた。
「んっ……ソフィア、さん……オレ、そろそろ帰ります」
「どうして? まだいたらいいじゃない」
「いや……でも、旦那さんが、」
「主人とはもう三ヶ月も別居してるの。他に女がいるみたい」
まさかそんなことになっているとは知らず、ブロッケンJr.は目を丸くする。
「なん、で」
「ふふ、私に魅力がないんだと思う」
「そんなこと……! ソフィアさん、すげぇ綺麗で、笑うと可愛いのに……」
「ブロッケンくん……」
ソフィアが甘えるようにブロッケンJr.の肩に頭を寄せた。微かに香る女の甘い体臭に、ブロッケンJr.の心臓はバクバクと激しく鳴り、下半身に熱が集中し始める。
首を動かしてソフィアを見れば、彼女も潤んだ瞳でブロッケンJr.を見つめ返した。
ブロッケンJr.はソフィアの頬に手を当て、顔を近づけた。
「「ぃっ……!」」
キスした途端に歯がガチリと当たり、二人とも短い悲鳴を上げる。
口を押さえてソフィアがブロッケンJr.へ目をやれば、気の毒なほどに落ち込んでいた。
「す、すみません……こういうこと初めてで……」
「え……そうだったの?」
「はい……情けないですよね……」
「……そんなことないよ。ブロッケンくんは凄くかっこよくて、優しい男の子だもの」
「っ……ソフィアさんっ」
ぎゅぅっと抱きしめられて、今度は歯が当たらないようにとそっと口付けられた。
何度か角度を変えて啄んで、ブロッケンJr.より経験のあるソフィアがぬるりと舌を差し込めば、すぐに熱い舌が絡みついてくる。絡め合い、尖らせた舌先で上顎を撫で、再び絡めて――
「ん……、ん、ぐっ……」
唇を合わせたまま、ソフィアがパンパンに膨らんだ怒張を下から上へ焦らすように何度も撫でると、ブロッケンJr.はくぐもった声を漏らしてビクンッと体を震わせる。
どちらともなく口を離せば、二人を繋いでいた糸が重力に従ってぷつりと切れた。
「ブロッケンくん、寝室に行きましょう」
薬が効きすぎているのか、ふらふらと足元がおぼつかないブロッケンJr.を支え、ソフィアは寝室のドアを開けた。
ずっと一人で眠っていたキングサイズのベッドに、全体重をかけてブロッケンJr.を押し倒す。
「ブロッケンくん、初めてがこんな年増でごめんね」
「オレ、ソフィアさんがいいです。ソフィアさんのこと、好きだから」
「嬉しいな……ご両親はいつ帰るの?」
「明日の、夕方……」
「じゃぁ今から明日の夕方まで、いっぱい好きにしていいからね」
コクコクと夢中で頷くブロッケンJr.に興奮を隠せず、背筋がぞわぞわと粟立つ。ソフィアは舌なめずりをするとブロッケンJr.の唇を食み、久しぶりの肉欲に溺れた。