平九郎 物怪の幸い
札を一枚捲る。今日も海全にフラれると出てホッと胸を撫で下ろした。
するとちょうどあいつが通りがかったので、俺は札を手にしたまま立ち上がって近づく。
「またフラれるって出たぜ」
「私と海全で占ったの?」
「おう」
「じゃぁ次は私と平九郎で占ってよ」
「なっ、なんでだよ」
「いいから占って」
くりくりとした丸い瞳で見つめられ、ぐっと言葉が詰まる。そういう顔に弱ぇんだよなぁ。
緊張で震える指が札を落とさないように、無駄に力を入れて占う。
「だ、大吉だってよ……」
ありえねえ。なんで俺とお前が上手くいくことになるんだよ。海全とじゃ一度もこんな結果にならなかったのに。
「まぁ半分当たらねぇしな!これも外れるだろ!」
嬉しいような悲しいような、俺は自分に言い聞かせるように捲し立てる。期待するだけ無駄だし、なんだか妙に恥ずかしかった。
わはは、とぎこちなく笑う俺。
そんな俺の耳は、ぽつりと呟かれた小さな声を捉えた。
「そうかなぁ……当たると思うけど。というより、当たるといいな……」
「えっ」
聞き逃すはずのない好きな女の声なのに耳を疑う。
ぽかんと間抜けな顔をしているであろう俺を置いて、佐兵衛に呼ばれたあいつはそそくさとその場を去って行った。
「は、なに……なんて……?」
なんかすげぇこと聞いちまった……よな?
激しく鳴る心臓と顔に集まる熱は、あいつの言葉の意味を理解しようとする俺の邪魔をし続けるのだった。
2023.11.20