五郎丸 温柔敦厚

 二羽の鷹が執拗に嫌がらせをしてくる。私は何もしていないのに。
 何度かわざとすれすれを掠めたかと思うと不意に体をぶつけてきて、接触した箇所に痛みが走る。

 痛い。誰か助けて!

 そんな私の声を聞きつけたのか、近くにいた一人の男性が指笛を吹いた。

「やめろ!」

 彼が怒鳴ると二羽の鷹が途端におとなしくなり、すまし顔で木の枝に留まった。
 鷹の猛攻に遭い続け、体力も尽きかけてふらふらした私を彼が即座に受け止めてくれる。

「太郎丸と次郎丸がすまない……怪我をしているな」

 彼はそう呟くと、痛々しそうに顔を顰めて私をうかがってくる。
 あなたが怪我を負わせたわけではないのに。優しい人なんだろう。
「ピィ」と小さく鳴けば、彼は大きな手で私の小さな頭をゆっくりと撫でた。

「怪我が治るまでうちにおいで。太郎丸と次郎丸にはちゃぁんと言い聞かせるから」

 断る理由もなくピィピィ鳴いて返事をしたら、彼は「綺麗な声だなぁ」と子どもみたいに無邪気な笑みを浮かべた。

2023.11.19